2004年5月5日「東西四大学合唱演奏会ライブ記録全集」完成、2006年2月3日「東京六大学合唱連盟定期演奏会ライブ記録集」完成、そして2006年9月3日、遂に「早稲田大学グリークラブ定期演奏会ライブ記録集」が完成した。
これまでに山古堂本舗が総力を挙げ、足掛け20年以上に及ぶ音源探索と8年に及ぶデジタル化に取り組んできた3つの柱が、これで一応の完結を見たことになる。これら3つの柱を量的に総括すれば、「第50回」を区切りとして、
-第50回東西四連までで78枚、うちアナログ音源分が49枚
-第50回東京六連までで76枚、うちアナログ音源分が42枚
-第50回早稲田グリー定演までで75枚、うちアナログ音源分が49枚
となり、その合計は全229枚、アナログ音源分で140枚である。
アナログ音源分と言っても、第4回及び第16回早稲田グリー定演、第11回東京六連、第15回東西四連については、各関係者がデジタル化したCDに拠っており、全てが山古堂の手によるものではないから、正確に言えば137枚程度になる。
しかし、CD1枚にざっくり10時間かかっているとお考え頂きたい。これ即ち、毎週末に欠かさず10時間の作業をしたとして約2年8ヶ月を要するという事である。上記3つの柱以外にも、戦前のSPや関西六連や多くの大学(例えば関学、慶應、同志社、立教、東経大、日本女子大、等々)の定演、その他世界の伝説的合唱団、世界大学合唱祭5枚など、デジタル化すべき音源が少なからずあった。それら全てを合わせれば、アナログ音源分だけでも250枚は超えている。このことを考え合わせれば、完成までに8年を要したことも御諒解頂けるかと思う。
その8年間の間に多くのことが起きた。デジタル化に関しての印象的なことをいくつか挙げると;
1.
関西学院グリークラブ、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団、同志社グリークラブがそれぞれ百周年を迎えたことに伴い、その記念事業として各団の各種記録のデジタル化が進んだ。特に同志社グリーは主要な演奏会の音源や資料をほぼ全てデジタル化保全したそうである。他にも関西大学グリークラブや北海道大学男声合唱団など、多くの大学男声合唱団が過去の演奏記録をデジタル化し始めるなど、音源デジタル化保全の動きが普遍化した。誠に喜ばしいことである。ちょっとだけ自慢させて頂ければ、山古堂本舗もそういう各団のデジタル化の一翼(の羽根の数枚)に貢献出来たことも誠に喜ばしい。
2.
一方で、大学男声合唱の演奏に携わって来られた先生方や先輩方が、惜しまれつつもこの世を去っていかれた。そうした方々の幾人かに、彼らが携わった往年の演奏のCDを一部なりともお聴き頂く事が叶ったのは、音源デジタル化作業を行う者として誠に幸いであった。
3.
山古堂本舗にも変化があった。「古」こと古賀準一君が九州に転勤、「山」こと山古堂主人も上海に転勤。そして両家とも家族が増えた。
山古堂主人の活動で言えば、昨8月に上海に来てからと言うもの、月の1/3以上は出張で家を空けているわけだから、自然とデジタル化作業のペースも落とさざるを得ないし、また作業に関する備品類も中国ではほとんど手に入らないから、数少ない日本出張の機会には秋葉原などに出向いて資材調達をするのが常であった。
とにかく大変だったんだよ。自分の出来うる最大限のことを、一切の妥協を許さずに遂行してきたんだから。CD1枚あたり10時間と言ったって、録り直しも何度かあったし、イレギュラーなケースでは30時間以上かかってるものもある。それでも、東西四連全集が完成した折に記した通り、演奏者達の熱い想いを最高の形で保全したいと思ったら、手を抜くことなんか絶対に出来ないし、また手を抜こうとも全く思わなかった。そういう意味では、この一連の作業の本当の凄さと苦労を真に分かっているのは、舞台裏を知っている山古堂の堂員2人だけなのかも知れない。
いや、堅苦しいことは言わない。何とかしてこれらの音源を公開し、出来るだけ多くの方に聴いて頂きたい、というのが次の想いである。
幸い、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団OBの小嵐正昭様(1968卒)より御提案を頂いたことから、東西四連・東京六連についてはほぼ完全な形のライブラリとしてワグネルHPからお聴き頂く事が出来るようになった。次は早稲田グリー定演の音源公開なのだが、これは、やや逃げ腰であることは否めないが早稲田グリー現役やOB会にその作業を委ねたい。実際、まともにWeb公開すると莫大な金額をJASRACに支払わねばならなくなるし。
早稲田グリーの50年に及ぶ定演記録を聴き、思うことは沢山あるが、ごく簡単に。
合唱コンクールに出場していた時期(1961まで)や、その余韻が残っていた1960年代前半の演奏は、この時期に特有のストレートで爽やかな声で、技術的にも安定しており、特に第12回定演(1964)は187名という大人数が一糸乱れず、全ての定演の中で随一の素晴らしい演奏会である。その他第23回、第37回も出来栄えが良い。付言するなら、個別ステージでは、名演好演のみならず、記念すべき初演や珍しい作品も数多く含まれている。
コンクール出場を取りやめて以降の演奏は、ごく簡単に言うと「自分達の演奏レベルを計る物差しの模索」の歴史であることが明らかになる。1970年代以降、常任指揮者や常任の強力な技術指導者を持たない早稲田グリーは、年々の演奏の仕上がりにバラつきや波が大きく、これはその年々の4年生の苦闘を示してもいるが、指導者の当たり外れも示している。学生が引きずり込まれるようなカリスマ指揮者では名演を繰り広げる一方、合唱をナメてる器楽系指揮者や学生の嗜好と合わない選曲をする指揮者では演奏が沈んだり。加えて、技量のアップやメンテナンスは学生に任せ、純粋に芸術指向やアミューズメント指向に傾倒する故・福永陽一郎氏が毎年指揮台に登場した1980年代の場合は、結果として学生指導陣の技量が問われることになる。ある学年が技術的な水準を高めるためにつまらない練習をすると、翌年は反動で「ノリだぜぇ」となるような流れや、その逆の流れも見受けられ、特に1980年代中盤以降の数年は技術的な基盤が脆弱で、一時はどうなるか、という様相を呈した。
それが1989年の第37回定演で一応の回復を示し、1990年代中盤の人数減少期まで継続する。だが、21世紀初頭の数年ではまた、合唱団をきちんと仕込むことの出来る指揮者や、きちんと指導できる常任ヴォイス・トレーナーが不在がちで、例えば東西四連などでの拍手こそ他団より多いものの、その演奏レベルが例えば欧州正統派クラシックを演奏するに際して堪え得るものかどうか、客観的な物差しで計れば自ずと「歴史は繰り返す」の軌道に乗っているのが見えてくる。このことを踏まえて2006年時点の現役がどうすべきかは現役自身が解っているはずだ、とは言わない。これは恐らく現役という立場にいるうちには分からないことだからである。(蛇足だが、山古堂主人はこのことで現役をどうこうしたい、とは考えていない。もっと踏み込めば、OBが現役のためを思って助言するまでは良いが、助言を超えた行動に走り、「良かれと思って」ではなく「良かれと思え」で、パワーゲームで現役を言いなりにしようとするのは、言語道断である。早稲田グリーでは良く生じることだが。)
別に今の現役の演奏に対して苦言を呈そうとか、昔は良かったなどと言う意図はない。同じような状況が1960年代中盤や1970年代後半や1980年代中盤以降にもあった、最近もそういう星のめぐり合わせだ(とも言うべき偶発的要素も多いから)、それだけである。
演目に関して、第42回定演のアニメソング集(1994)や第46回定演「わんぱくワセグリっ子大集合」(1998)、あるいは第55東京六連「六連だよ全員集合」(2006)といった演目については賛否両論がある。しかし、戦後数十年の男声合唱界を支配してきたような演奏スタイルや演目が、ここ数年の合唱界や観客層には当て嵌まらなくなっていることもあり、最近の演奏の評価はこの先10年のスパンで明らかにされよう。現代の早稲田グリーの演奏が実に素晴らしい、という評価を2ちゃんねるその他の媒体で見かけるが、ある特定の時期・範囲・観客においては間違いない評価なのであろうし、そもそも「良い演奏」の定義は時代によって変わり得るのだから。もし1980年代の重厚な男声合唱を聴きたければ、現役学生に求めるのではなくて、そういう時代の演奏スタイルを温存するOBや一般の合唱団を聴きに行けば良い。
なお、この早稲田グリー定演ライヴ集も、東京六連ライヴ集同様に山古堂本舗ではあえて「全集」とは呼ばない。その理由もまた、東京六連ライヴ集同様で以下の2点である。
1点目は、1960年代の定演抜粋レコードに関し、収録されていない演目について言わばプライヴェート録音のようなオープンリールがいくつか存在するようで、OB還暦会などで作成されたプライヴェートCDなどに時折そういった音源が収録されてくることがあるように、今後もレコードに収録されなかった演目の音源が明らかになる可能性があるからである。
2点目は、1970年代のレコードに関し、状態の悪いレコードしか見つからなかったものがあり、いつかもっと状態の良いレコードが見つかった場合に、改めて再デジタル化をする可能性があるからである。
収録技術に関して2点。手持ちのレコードや、或いはお借りしたレコードに傷があり、他の方からお借りしたレコードで補完する、ということが何度もあり、デジタル編集ソフトに頼らざるを得ないケースもあった。特に波形編集ソフトとして使用したフリーウェア「Audacity」は、波形を手書きで修正出来ると言う「神の手」ソフトで、例えば1セットしか入手出来なかった貴重なレコードにある致命的な傷のノイズを削ったり、あるいは組曲を複数のレコードからつなぎ合わせる場合につなぎ目を目立たなくする、といった際に大いに役立った。勿論、こういったソフトの使用はやむを得ない場合のみ、最低限の使用としており、例えばノイズ除去機能を単純に適用するようなことは一切していない。
またレコードクリーニングには、2002年以降レイカ・バランスウォッシャーを湯水のように消費したが、これは高価なだけにスグレ物であった。アナログ派の方は既にご存知かと思うが、改めて推奨したい。
演目一覧に関し、東西四連全集・東京六連演奏集ではMS-Wordで作成したが、この早稲田グリー定演集ではCD簡易ジャケットをそのままAdobe-Acrobatのpdf形式にすることとした。というのも、特に古い音源に関しては備忘録的に解説を加えており、これも御一読頂きたいと思ったからである。このpdfファイルは印刷して周囲を切り取ればそのままCDジャケットに使えるようになっている。字が小さいがお許し頂きたい。
ついでに、山古堂本舗/アナログ音源デジタル化における最新状況リストも付けておきます。
最後に、注記すべきことを2点
まず本当にあったお話。
第28回定演(1980)のデジタル化に際し、井上靖夫先輩(1981卒)からお借りしたレコードは良く聴きこまれていて、年代物にふさわしいノイズが出ており、かといって致命的な傷もなかったから、これはこれで良いか、とも思っていた。ところが、2003年春のある日、何気なく神田・神保町の中古レコード屋を訪れたところ、何と第28回定演のレコードが売りに出ていたのである。
店員によれば、詳しくは教えて頂けなかったが、中年の女性が「亡くなった夫の持ち物」として、まとまった量のレコードを持ち込んできた中にあった、という。確かにこの年度のメンバーには、既にこの世を去っている方が数名おられるが、しかし・・・こういう形で後輩を助けて下さった、ということか・・・
勿論、このレコードの元の持ち主が早稲田グリーOBとは必ずしも限らないが、結局このレコードを購入した。盤質は良好であり、「炎える母」「Die Lustige Witwe(メリー・ウィドウ)」はこのレコードからテイクした。
次いで、
第42回定演(1994)の企画ステージ「アニメの森にきてみろリン」は、その後著作権関連の許諾が得られなかったとのことで、最終的にライヴCDの販売が凍結された。言わば幻の音源である。従い、今後早稲田グリー定演の音源が公開されるとしても、「アニメの森にきてみろリン」だけは公開されることはない。
謝辞。
早稲田グリー定演集の制作に関し、アナログレコードは、福永暁子ママさん、宇野義弘先輩(1957卒)、加藤晴生先輩(1962卒)、清水實先輩(1963卒)、鈴木紘輝先輩(1966卒)、日和佐省一先輩(1971卒)、渡辺正美先輩(1976卒)、細金雅彦先輩(1980卒)、仲村弘之先輩(1980卒)、井上靖夫先輩(1981卒)、小川徹先輩(1988卒)、津久井竜一君(1989卒)に御協力を頂いた。
福永暁子ママさんからは、故・福永陽一郎氏所蔵の音源を長期にわたってお借りすることが出来、大学男声ライヴ音源の全般にわたって強力な御助力を頂いた。
第38回定演以降は元々CDで制作されているが、1990年代中盤までのCDは現役の手元にも在庫が無かったりして、思わぬ苦戦を強いられた。そのような状況下で、中村正次郎君、松崎一夫君(共に1991卒)、金井博史君、蓮見祐基君(共に1997卒)より、これもまた強力な御助力を頂いた。
また、早稲田グリー2002年度ライブラリアンの坂巻賢一君、2003年度ライブラリアンの吉川雅洋君を通じて、現役手持ちのオープンリールやCD音源、未使用の第36回・第37回定演レコードなどを御提供頂いた。
改めまして、厚く御礼申し上げます。
勿論、上海に来てまでヘッドフォンを装着してオーディオ機材に対峙し(家族に背を向け!)、湯水のように金品を注ぎ込み、平日深夜はともかく休日も部屋にこもり、時には徹夜で作業している山古堂主人に、何だかんだと言いながらも協力し続けてくれた家族、妻・今日子と2人の息子・玲&悠斗にも、感謝の他はありません。
二〇〇六年九月三日 山古堂主人敬白
Turn Table : YAMAHA GT-2000
Cartridges : DENON DL-103C1, DL-103R & Audiotechnica AT33PTG
Open-Reel Tape Deck : Technics RS-1500U
Cassette Tape Deck : YAMAHA K-1x
Graphic Equalizer : Technics SH-8065
DAT Recorder : Pioneer D-05 & Sony DTC-ZA5ES ( Sampling = 48kHz )
CD Recorder : Pioneer PDR-D7 & TASCAM CD-RW402 Ver.3
CD Player : DENON DCD-1650GL
Amplifier : Sansui AU-alpha607LE
Head-phones : Sony MDR-CD2500 & Audiotechnica ATH-W1000
Computer : DELL Dimension 8300 (Pentium-4 3GHz) + Windows XP SP.2
Software : Roxio Easy CD & DVD Creator 6
& Audacity Ver.1.2.4b(Free Software)
[資料]
●早稲田大学グリークラブ定期演奏会第4回~第50回曲目リスト
●山古堂アナログ音源デジタル化リスト