合唱音源デジタル化プロジェクト 山古堂

早稲田大学グリークラブOBメンバーズ<特別編集> 真性合唱ストーカーによる合唱音源デジタル化プロジェクト。


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第13回 日本の男声合唱に影響を与えた米国の合唱団たち

四連関係で「そろそろ自分の演奏の番だ」とお慶びの方、申し訳ございません。しっかりグレート・ザ・武内先生の”津軽の音素材による合唱「四季」”の超高音ソロなども聴き込んでおりますが、まだ全文を書き上げ切れておりません。

実は山古堂主人、7月付で副業の方で社内転属があり、忙しい部署に配置されてしまいましたので、今回はこんなお題で場をつないでしまいますこと、何卒御容赦下さいませ。つなぎとはいえ、結構時間と費用をかけておりまするゆえ。

さて、合唱=クラシック=ヨーロッパ、というのが常識的なところですが、日本にも優秀な合唱団があるように、アメリカにも優秀な合唱団があり、これまた独自の文化を築いていて、しかも、特に日本の男声合唱団には多大な影響を与えて来ました。ということで、これまた備忘録的に書き留めていく訳です。とりあえず4団体。

The Robert Shaw Chorale ロバート・ショウ合唱団
The Roger Wagner Chorale ロジェ・ワーグナー合唱団
The De Paur Chorus デ・ポーア合唱団
Yale Glee Club エール大学グリークラブ


これら4つの合唱団については、名前は聞いたことがあるのではないかと思いますが、実像は思ったほど知られておらず、ライヴ・録音に関わらずその演奏を聴いたという人もまた、思ったより少ない。
ここで真性合唱ストーカーの出番となるわけです(笑)

なお、ここでいう「影響」とは、レコードや来日公演による「音」としての影響と、レパートリー=「楽譜」としての影響と、その2つを指します。
では、どうぞ御笑覧下さい。

The Robert Shaw Chorale
ロバート・ショウ合唱団

レパートリーの面で、現在においても日本の大学男声合唱団において重要な位置を占める編曲を数多くリリースした指揮者・編曲者Robert Shawと、その模範演奏を聴かせるThe Robert Shaw Chorale(ロバート・ショウ合唱団)について。

Robert Shawは編曲者として有名だが、実際にはパートナーであったAlice Parkerの手による編曲もかなりあったという話を聞いたことがある。

The Robert Shaw Choraleは、Robert Shaw率いるメンバーシップ制 (登録者を適宜招集、ただ実際にはあまり変動しなかったらしい)のプロフェッショナルな混声合唱団で、人数は40名程度をコアメンバーとし、演目によって増減する。
R.ShawとA.Parkerのコンビによる新鮮なタッチの編曲は、この合唱団の演奏したレコードと共に、世界中の合唱団の愛唱曲に加えられた。
ハリウッドを中心に活動していたMich Millerや、米国南部を拠点としてAfro-American音楽を中心に活動した、黒人霊歌研究家でもあるW.L. Dawson、あるいはコンサート・パフォーマンスを主眼としたRoger Wagnerに比べ精密で生真面目なのは、イギリス音楽を深く学んだShawの気質によるものであろう。
R.Shawの「門下生」であったというTokyo International Singers指揮者のM. L'esperans氏に聞いた話では、原則として練習やリハーサルでは部外者をシャットアウトし、リハーサル中などでも大変な緊張感で身動き出来なかったという。

編曲者・R. Shawの歴史的評価はほぼ定まっていて、才人であることは間違いないのだが、その編曲の方針は聴衆の気を引く派手で華美なものであり、斬新である反面、原曲を大きく覆すことも多々あった。
例えば、大衆歌謡といっても良い「Die Lorelei」の編曲を「コテコテのドイツ系合唱曲風」にしたり、「Loch Lomond」を完全にイングランド海軍系のマーチにしちゃってスコットランドの風情なんかどこにもない勇壮な編曲にしたり、元々長調で牧歌的なシーシャンティーをこれまた勇壮な行進曲にしてしまった「Spanish Lady」や、混声版で言えば最初から最後までクレシェンドしかない、例えは悪いが重戦車のようなクリスマスキャロル「The First Noel」等々、R.Shawの三原色系デコレーション編曲(山古堂PAT.PEND)の顕著な例にはいとまがない。
それら三原色系デコレーション編曲については、その是非はともかくとして、非常にアメリカらしい下記のような背景に基づくものである。

The Robert Shaw Choraleは第二次世界大戦直後からSPレコードのリリースを開始したが、SPは所詮、片面で最大4分程度しか再生出来ず、また片面に1曲ずつではサービスとして弱いから、それこそ両面の計8分に3~4曲を詰め込むなど、自ずと編曲構成にも制限があり、コンテンツの工夫が要求された。
戦勝国アメリカとはいえ戦後の乏しい娯楽体系の中で、いかにSPのノイズを突き抜けて音を鳴らすか、いかに4分間にドラマを凝縮するか、というマーケティング戦略が当然に重視されるが、そのような時期を経てR.Shawは「アピールする編曲」のノウハウを掴んだものと推測される。

そのR.Shawに、技術革新の追い風が吹き始める。
1950年代初頭に登場した、当時最新技術であった片面で最大30分連続再生出来る、しかも落としても割れない材質の30センチLPレコードと、まるで家具のように立派な再生装置を普及させたかった企業がいくつか連携をしたが、その中でも音楽ソフトを豊富に持つRCA(Radio Corporation of America)とVictorの共同戦略というのが、RCA-Victorブランドの「Living Stereo」というキャッチコピーを標榜した戦略であった。
これは演奏会場に行かずとも家庭で手軽にレコード鑑賞会を開きましょう、というものであって、世界のクラシックやジャズやポピュラーの名曲集レコードを、斬新なアレンジと一流の演奏家によって制作し、初期の頃は会員制まで敷いて頒布したが、ここでR.Shawの手兵たるThe Robert Shaw Choraleとその書き溜めた編曲が大いに羽を伸ばすことになる。

この書き溜めた編曲については、LPとなって初のレコードのコンテンツを見れば分かる。
The Robert Shaw Chorale初の30cmLPレコード「A Treasury of Easter Songs(RCA VICTOR LM-1201 /MONO 1951)」には20曲も詰め込まれ、また後述
する初の男声のみによるLP「With Love from a Chorus (RCA-LM1815/1954)」でも16曲が収録される。
どの曲もSP片面に収まる長さであり、この2枚のレコード計36曲での1曲あたりの平均演奏時間は、僅か2分13秒しかない。

参考までに、このThe Robert Shaw Chorale初のレコード(混声)の収録曲・全20曲は、下記の通り。


A Treasury of Easter Songs(RCA VICTOR LM-1201 /MONO 1951)

Christ The Lord Is Risen Today (Traditional hymn -1708)
Hilariter (Traditional German -1623)
This Joyful Eastertide (Traditional Dutch -17th Century)
Salem (Early American)
Maria Magdalena (Johannes Brahms)
Do-Don't Touch'a My Garment (Negro Spiritual)
Easter Anthem (William Billings)
Love Is Come Again (Traditional French)
Now April Has Come (Traditional Welsh)
Ehre sei dir Christe (H. Schuetz)
Christ The Lord Hath Risen (Traditional chant -12th Century)
The World Itself Keeps Easter Day (Traditional carol)
Easter Eggs (Traditional Russian)
Tenebrae Factae Sunt (F. Poulenc -1938)
'Tis Finished (Early American -1815)
On Easter Morn At Break Of Day (Traditional Scotch)
That Virgin's Child (T. Tallis -1560)
O Sons And Daughters (Traditional French -15th Century)
Calvary (Negro Spiritual)
The Passion (According to St. John, J.S. Bach)

余談ながら、R.Shaw & A.Parkerの編曲は「グリークラブアルバム」の中にもいくつかが収録されているが、それらはほんのわずかな改編を加えて邦人編曲として掲載されている。

RCA-Victorの販売戦略に上手く乗った結果、R.Shaw & A.Parkerの編曲する黒人霊歌、フォスター、世界の民謡、シーシャンティーなどがThe Robert Shaw Choraleのハイレベルかつ開放的な演奏と共に大変な人気を博し、The Robert Shaw Choraleのワールドツアーと併せ、その人気はそのまま1980年代まで続いた。

RCAから発売されたThe Robert Shaw Choraleのレコードは、共に編曲をしたA.ParkerのWEBサイトによれば、17枚を数える。
これらは全てRCA-Victorレーベルであり、ホーム・レコードコンサート等によるレコード娯楽文化が華やかなりし時代、1951-1968年にその全てが発売されている。
もちろん1970年代以降も精力的に活動しており、その後もThe Robert Shaw Festival Choraleという名称で現代に至っている(その割にはCD化され再発売される枚数が少なすぎるが)。

Robert Shaw Choraleは混声合唱団だが、R.Shaw & A.Parkerの編曲は男声合唱にも数多く、Robert Shaw Choraleの男声部のみによるレコードは下記の4枚があり、日本の男声合唱で良く歌われる演目も多い。山古堂では幸いなことに全てを確保しCD化も完了している(Sea Chantiesは復刻市販CDにて入手)。


With Love from a Chorus (RCA-LM1815/1954)

Jauntier 
Aura Lee
Wait for the Wagon
Love's Old Sweet Song
When You and I Were Young, Maggie
Lorena
Sweet Genevieve
Li'l Liza Jane
Seeing Nellie Home
Grandfather's Clock
Bonnie Eloise
Stars of the Summer Night
Home, Sweet Home
Believe Me, If All Those Endearing Young Charms
Drink to Me Only with Thine Eyes
Good Night, Ladies


A Chorus of Love (RCA-LM2402/1960)

Vive l'amour   
Die Lorelei   
Marianina   
Turn Ye To Me   
Auld Lang Syne   
Green Grow the Rashes, O   
Stodole Pumpa   
My Bonnie   
La Tarara   
L'Amour de Moy   
Loch Lomond   
Passing By   
Down by the Sally Gardens   
Du, du, liegst mir im Herzen   
Darling Nellie Gray

Sea Chanties (RCA-LM2551/1961、1999年にCDで再発売/RCA-63528)

Blow The Man Down
Bound for the Rio Grande
Lowlands
Whup!Jamboree
Tom's Gone To Hilo
A-Roving
Fare Ye Well
What Shall We Do with the Drunken Sailor
The Shaver
Stormalong, John
Swansea Town
Haul Away, Joe
Shenandoah
Santy Anna
The Drummer and the Cook
Spanish Ladies


23 Glee Club Favorites (RCA-LM&LSC2598/1962)

Whiffenpoof Song   
Landlord, Fill the Flowing Bowl   
Amici   
Old Tom Wilson   
An den Fruehling   
Die Rose stand im Tau   
Once in Our Lives   
Five Reasons   
'Tis Women   
Ich schwing mein Horn ins Jammertal   
The Testament   
Old Ark's A Moverin'   
Gaudeamus Igitur   
Old Man Noah   
Come Again, Sweet Love   
De Animals A-Comin'   
Shall I, Wasting in Despair ?   
Winter Songs   
The Pope   
April Is in My Mistress's Face   
Integer Vitae   
Twilight   
Brothers, Sing On !
 1, 2, 3, 10, 13, 21, 22 are arranged by Robert Shaw & Alice Parker

この「23 Glee Club Favorites」は、後述するアメリカの名門中の名門、Yale Glee Club(エール大学グリークラブ)のレパートリーが中心となっている。



また、上記の他に「Foster Song Book(RCA-VICTOR / RED SEAL LSC-2295 / STEREO1959)」にも下記の男声合唱編曲が含まれる。収録順に;

Ring de Banjo
Gentle Annie
Way Down in Ca-i-ro
Dolcy Jones
Gentle Lena Clare
Laura Lee
このフォスターのレコードは、単旋律ながらも伴奏付き楽譜までついた豪華盤。

これらのレコードと収録曲の楽譜は、恐らく発売から間をおかずに日本に流通し始めたと推測される。
丁度軍隊から派生した黒人のみで構成されるデ・ポーア合唱団やHarvard Glee Club、Yale Glee Clubが来日を始めた頃と合致すると思うが、それまでの欧州系の合唱曲とは異なった陽気で押し出しの強い曲は、それこそあっという間に日本中の男声合唱団のレパートリーになった。

The Roger Wagner Chorale
ロジェ・ワーグナー合唱団

こちらもやはり優れた指揮者・編曲者のRoger Wagnerと、その指揮下の合唱団である。
この団体も混声合唱団で、人数はツアーによって多少変動あるが、20~30名程度のことが多い。
The Robert Shaw Choraleに比べればずっとポピュラー志向であり、特にコントラバス1丁を加えてのフォスター歌曲集や黒人霊歌では、右に出るものがいない素敵なステージパフォーマンスを見せる。
あの好き勝手な楽器やおもちゃを鳴らしまくる「Dry Bones」の演出を始めたのもこの団体ではないか。
このRoger Wagnerの編曲は、日本でも多くの音源や楽譜が比較的容易に入手出来る。
そういうことで、基本的には日本の混声合唱団、そしてフォスター・ファンに親しまれている団体。

しかしながら、不思議なことに男声部のみによるレコードが1枚だけリリースされている。
かの有名な「Sailing Sailing」を含むSea Chantiesである。
アコーディオン等の伴奏楽器も付いた演奏。


Sea Chanties(CAPITOL / Toshiba CA-8697 日本製)

Sailing, Sailing
Erie Canal
Fifteen Men On A Dead Man's Chest
Boston Come All-Ye
Rio Grande
A-Roving
The Golden Vanity
The Drummer And The Cook
High Barbaree
The Wide Missouri
Blow the Man Down
Lowlands
Early In The Morning
Haul Away, Joe
Leave Her Johnny, Leave Her
Tom's Gone To Hilo
Robert Shawによる編曲も一部含まれるが、Robert Shawとはアプローチの異なるオリジナル編曲も多く、全般としてThe Robert Shaw Choraleの歌うSea Chantiesよりも、聴いていて楽しいエンターテイメントとなっている。

The De Paur Chorus
デ・ポーア合唱団

来日時、その演奏スタイルで日本の男声合唱を打ちのめした、伝説のオール黒人男声合唱団。
まずレコードジャケット解説を原文まま記載する。
(COLUMBIA DIAMOND SERIES ZL-1133 / MONO, 1960)

デ・ポーア黒人合唱団は、第2次大戦中に結成された優秀な合唱団体で、1942年にニュー・ジャージーのフォート・ディックスで生まれたものである。
この合唱団のオリジナル・メンバーは何れも米国372連隊の兵員達であり、元来、射手、炊事係、通信兵、砲手などであった。
他の大方の合唱団と同じく、全くの素人の集りから発しているわけである。
夜になると同連隊の歌の好きな連中は、暇さえあれば礼拝所、寺院などに集って合唱の練習を行い、間もなく他の部隊の兵隊たちの慰問演奏を依頼されるまでに上達、更に戦債の募集や、ラジオのプログラムにも出演する様になった。
1944年の初め頃、372連隊は太平洋岸方面の任務を与えられ、続いてアリゾナの基地に駐屯することとなった。
ちょうどこの頃、秀れた音楽家であり、陸軍航空隊に任務を持っていたレオナード・デ・ポーアが372連隊付となって着任し、この合唱団を指導する様になったのである。

デ・ポーアの経歴はちょっと変っている。彼はコロムビア大学と美術学校を卒業し、しばらくの間有名なホール・ジョンソン合唱団の次席指揮者をしていた。
のち黒人劇場の音楽監督に任ぜられたが、これはニューヨークの州立劇場で非常に立派なものであった。
この劇場の公演の際は、作編曲をすべて彼が引き受けたのである。
その中にはオーソン・ウェルズの『マクベス』『ハイチ』、オニールの4つの海洋劇などがあった。
同じ年、彼は歩兵師団に初年兵として入隊した。
そして間もなく予備士官学校に入学したが、ここでは彼は陸軍航空隊の『翼の勝利』というショウの合唱指揮者としての仕事を数年間務めた後、海外勤務を希望して任ぜられたのが372連隊付だったのである。

1945年初頭、この連隊がハワイに到着した際、デ・ポーアの指揮する合唱団は、太平洋方面最高司令部のために特別の演奏会を開いた。
この時の彼らの歌は非常な成功で、並居る者を感動せしめ、このため、特に中央太平洋方面のスペシャル・サービスの仕事をしていた著名な俳優モーリス・エヴァンスの要求により、同合唱団は連隊より離れ、独立の活動を行うこととなった。

ここで正式にデ・ポーア合唱団が誕生し、広大な地域にわたる演奏旅行が初められたのである。
彼らはどんな小さな島でも、どんな辺境の前哨部隊でも、およそ米軍のいる所は必ずといってよい位に足跡を残している。

彼等の歌ったステージもまた様々である。病院の病室、軍艦の甲板、潜水艦基地、補給所あるいは爆撃機の秘密基地などまで訪れた。
そして1日に6回の演奏会を開くという強行軍もまたしばしばであった。
太平洋地域に於ける演奏旅行の終了後、デ・ポーア合唱団はヨーロッパ占領軍の慰問に招かれたが、この招聘は合唱団のメンバーが兵籍を解かれる前には実現しなかった。

大戦終了後彼らは一応軍籍を離れたが、合唱団としての結束は解かず、そのままデ・ポーアの指導下に演奏旅行、ラジオ、テレビなどに新しい活動を始め、至る所で成功を収め、1954年には日本でも演奏会を開いている。

正規のメンバーは各声部合わせて36人、そのレパートリーの広さは驚くべき程で、黒人霊歌は勿論のこと、リズミカルなラテン・アメリカの歌、ドラマチックなロシアの祈りの歌から、16世紀のパレストリーナの合唱曲にまで及ぶが、もとより米国作曲家の手になるものも多く手掛けている。



第二次大戦終結後もしばらくの間は「The De Paur Infantry Chorus」、すなわち「デ・ポーア連隊合唱団」と表記されていた。
第二次大戦終結と同時に軍籍を解かれているのだが、宣伝効果を考慮して「Infantry/連隊」を残していたのであろう。

1945年にデ・ポーア連隊合唱団を名乗って以来、1958年まで活動した後に解散。その間に制作されたレコードは計9枚、また、そこから選別されたハイライト集が1枚あり、全て1950年代に米国コロムビア社からリリースされている。
その後、ヴェトナム戦争もあってか、1963年から1969年まで再結成されている。

1954年2月に来日し、東京と大阪で公演を行ったが、初の本格的な合唱団の来日ということで大変な反響を呼び、当時の男声合唱界に多大な影響を与えた。
別件で大変お世話になりました関西学院グリーOBの矢島康弘氏/1955卒にCDRをお送りしたところ、その後の書簡にて(無断転載をお許し下さい)、

「ところで、このDe Paurはなつかしく聴かせてもらいました。この合唱団は25、6人の編成で、今から丁度48年前、昭和29年の2月に初来日しました。当時、小生は四回生でした。われわれは、特急つばめで来阪した一行を大阪駅頭でウボイを歌って迎えました。その足で演奏会場の朝日会館に直行。本場のしかも本物のニグロ・スピリチュアルの生演奏に圧倒され、ゾクゾク背筋が寒くなりっぱなしだったことを鮮明に覚えています。その後、レセプションや何回かの演奏会があり、一行についてまわって今でいうオッカケでありました。」


という返信を下さいました。

さすがにノイズの多いレコードの演奏であり、また選曲が期待に反してビート感のない柔らかめの曲が多いので、恐らくリアルタイムで聴いている方々のデ・ポーアのイメージとはやや違うと思われるが、基本的には軍隊で鍛えた屈強な身体と、持って生まれた強靭な声を生かした非常に骨太な演奏、という感じ。ソリストがことごとくそういう声(笑)です。それとベースが非常に分厚い。加えて黒人特有の声質ゆえ、何ともいえない暖かい音も鳴る。

タテヨコがビシッと合った演奏ではないので、コンクール的視点から言うと4位銀賞(笑)、という感じだが、戦場を知る者達の一体感とか、いくつかの部分で見られるビート感とか、音の立ち上がりの速さとか、聴いているうちにデ・ポーアの世界に引きずり込まれる説得力とか、確かに伝説の合唱団になっても不思議ではない。

何と言うか、芸術分野としての合唱では無くて、戦争というものの圧倒的な喪失感を背負っている感じがして、これまでの「むかし一世を風靡した、圧倒的な躍動感の黒人合唱団」という先入観が完全に瓦解してしまう。陳腐な表現ですが「祈りにも似た」という雰囲気の演奏もある。

念のために記すと、躍動感とかビートと言うのは、音が瞬間的に立ち上がり、しかもその声量が圧倒的なのである。
これ、いつか音源をアップせねばなりませんね。

山古堂にて入手・CD化した音源は下記の6枚で、そのほとんどが25cmモノラルLP。


WORK SONGS and SPIRITUALS(ML 2119 / Mono, 1950)

Water Boy (Robinson - arr. de PAur)
Tol' My Cap'n (Worksong - arr. de Paur)
Jerry (Worksong - arr. de Paur)
Great Gawd A' Mighty (Worksong - arr. Jester Hairston)
Sweet Little Jesus Boy (MacGimsey - arr. de Paur)
Honor, Honor (Spiritual - arr. de Paur)
His Name So Sweet (Spiritual - arr. de Paur)
Take My Mother Home (Spiritual - arr. Hall Johnson)
Listen to the Lamb (Nathaniel Dett)


CHORAL CARAVAN(AAL 22 / Mono)

I've Got Sixpence (Box - Cox - Hall - arr. de Paur)
Song of the French Partisans (Hy Zaret - Anna Marly - arr. de Paur)
Rodger Young (Frank Loesser)
Vidalita (Argentine Folk Song)
Calla no Ilores (Don't cry, my heart / Julie Andre - arr. de Paur)
Prenda minha (My darling / Gurgel - arr. de Paur)


A SONG AT TWILIGHT(AL 42 / Mono)

Love's Old Sweet Song (Molloy - arr. de PAur)
The Sweetheart of Sigma Chi (Vernor - Stokes - arr. de Paur)
You'll Never Walk Alone (Hammerstein II - Rodgers - arr. de Paur)
Sweet and Low (Tennyson - Barnby - arr. de Paur)
The Whiffenpoof Song (Minningerode - Pomeroy - Galloway - Vallee)
Danny Boy (Londonderry Air / Weatherly - arr. de Paur)


SWING LOW (AL 45 / Mono (1953)

Swing Low, Sweet Chariot (arr. de Paur)
In Dat Great Gittin'-Up Mornin' (arr. Jester Hairston)
I Want Jesus To Walk Wid Me (arr. de Paur)
Who Build Te Ark? (arr. Hall Johnson)
Nobody Knows De Trouble I've Seen (arr. de Paur)
Soon Ah Will Be Done (arr. William L. Dawson)


CHORUS HIGHLIGHTS(COLUMBIA DIAMOND SERIES ZL-1133 / MONO, 1960 日本製)

LOVE'S OLD SWEET SONG - Molloy -
THE SWEETHEART OF SIGMA CHI - Vernor・Stokes -
SWEET AND LOW - Tennyson・ Barnby / Arr: de Paur -
THE LORD'S PRAYER - Malotte / Arr: de Paur -
THE WHIFFENPOOF SONGS - Minningerode・Pomeroy・Galloway・Vallee -
I'VE GOT SIXPENCE - Box・Cox・Hall / Arr: de Paur -
SOUND OFF (The Duckworth Chant) - Arr: de Paur -
Rodger Young - Frank Loesser -



The Spirit Of Christmas/God Is With Us(COLUMBIA CL 725 / MONO 30cmLP)

CAROL OF THE BELLS
WHITE CHRISTMAS
MARY, MARY, WHERE IS YOUR BABY
MARY'S LITTLE BOY CHILE
I WONDER AS I WANDER
GOD REST YE MERRY, GENTLEMEN
LO, HOW A ROSE E'ER BLOOMING
THE TWELVE DAYS OF CHRISTMAS
SILENT NIGHT, HOLY NIGHT
CREDO
DEAR LORD AND FATHER OF MANKIND
REJOICE YE PURE IN HEART
THE LORD'S PRAYER
GOD IS WITH US
BEAUTIFUL SAVIOR
AVE MARIA
O GOD OUR HELP IN AGES PAST

上記以外に「Calypso Christmas」というCDが復刻発売されていて、それも入手済み。

Calypso Christmas(Sony Special Products B00003JAQX)

Christmas in de Tropics
De Virgin Mary Had a Baby Boy [Trinidad Calypso]
Sweet Little Jesus Boy
Mary Had a Baby
Virgen Lava Panales [Mexican]
Christmas Present for Sallie [Calypso Derived of Barbados Folk Lore]
Mary's Boy Child [Calypso]
Oh, Poor Little Jesus
Mary, Mary Where Is Your Baby [Spiritual]
Roun' de Glory Manger
What You Gonna Call Yo' Pretty Little Baby?
Ring de Christmas Bells

これで未入手のDe Paur音源はあと3枚を残すのみ。

Yale Glee Club
エール大学グリークラブ

エール大学グリークラブ(YGC)は、レコードジャケットによれば1813年にその前駆としての活動を開始し、1863年にYGCとして創立されている。1990年初?に混声となっている。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、米国社交サロン等でのBGM的な余興として、或いは学生活動への実質的な寄付行為として学生団体に演奏を依頼する文化があったことも影響してか、米国の伝統ある学生合唱団の多くは欧州のクラシック正統音楽というより、ホームコンサートに見合うような独自の編曲やレパートリーを数多く擁していた。

また、19世紀後半から黒人の教育機会均等化のための大学設置が進んだことから、20世紀前半にはそういう黒人在学生の多い大学合唱団を中心に黒人霊歌の合唱アレンジが流行した。
そのような中でYGCは、M. Bartholomew(在任1921-1953)とF. Heath(在任1953-1992)という2人の傑出した指導者に恵まれ、2人の編曲による黒人霊歌やアメリカン・トラディショナルソング、シーシャンティーなどのYGCのレパートリーは、例えばそれらを多く含んだロバート・ショウ合唱団男声部のレコード「23 GLEE CLUB FAVORITES(RCA VICTOR LSC-2598 1962年)」等によって米国のみならず世界的に流行した。
日本で歌われている男声合唱レパートリーでも、黒人霊歌やアメリカン・トラディショナルソング等のいくつかの重要なレパートリーが、YGC版か、それらを日本人の手で改編し、邦人が編曲したことになっていたりする。

山古堂では1940年代に発売されたSP4枚組を入手し、CD化している。
SPは恐らく1940年代中盤に制作されたもので、SP4枚が立派な装丁のスリーヴに収められている。


Yale Glee Club(Columbia Set C-79)
Marshall Bartholomew, Conductor

SONG OF YALE

1. NEATH THE ELMS (Arr:Stoechel)
2. WAKE FRESHMAN WAKE (Arr:Stoechel)
3. THE WHIFFENPOOF SONG (Meade, Minnigerode, Pomeroy, Galloway)
4. A-ROVING (Arr:Bartholomew)

SEA CHANTIES

5. AWAY TO RIO (Arr:Bartholomew)
6. MY JOHNNY WAS A SHOEMAKER (Arr:Bartholomew)
7. SHENANDOAH (Arr:Bartholomew)

AMERICAN FOLK SONGS

8. CARELESS LOVE (Arr:McLoed)
9. CINDY (Arr:A.Hall)
10. PO' OL' LAZ'RUS (Arr:Work)

NEGRO SPIRITUALS

11. BATTLE OF JERICHO (Arr:Bartholomew)
12. ANIMALS A-COMIN' (Arr:Bartholomew)
13. COULDN'T HEAR NOBODY PRAY (Arr:Bartholomew)

注目すべきは「ANIMALS A-COMIN'」や「COULDN'T HEAR NOBODY PRAY」といった日本でもおなじみの曲が、編曲者自身の指揮によって演奏されていることであり、また彼らにとっては本当に大切な歌、「THE WHIFFENPOOF SONG」が本家YGCの演奏で収録されていることである。

なお、全く同じ音源が、1950年頃から出始めた33.3回転・直径25㎝のいわゆるLPレコード1枚に収まって再発売されており、幸いにもその両方を入手出来たのでデジタル化して聴き比べてべてみた。
LPは当時まだ黎明期であり、その材質も現在の塩ビではないから更に傷に弱く、加えて半世紀前のレコードなので、そもそも源音の音質が良くない上にレコードの傷が多い。
結果として、ほとんどSPと変わらないほどノイズの多い再生となった。

演奏は欧州に比べればテノールも地声だし、全体的に軽い演奏だが、アメリカの大学男声合唱の場合、その地声で軽い声のままどんな音域でも歌ってしまうのである。
また、軽いとはいえ芯が強くヴィヴラートが掛からないから、ハモると強烈に倍音が鳴る。
山古堂コレクションにある他のアメリカの大学男声、例えばUCLA Mens' Choir、Notre Dame University Glee Club、そして米陸軍士官学校Cadet Glee Club(現在は混声)のいずれもが同様だし、Barbershop-Quartetの優秀なチームも然りである。

なお、YGCには20世紀初頭からの伝統的な習慣に則り、The Whiffenpoofsという少人数アンサンブルを内包している。
このThe Whiffenpoofsについては
http://www.yale.edu/whiffenpoofs/
に詳細が記されている。
要は、YGC内部において20世紀初頭あたりから組織され対外的な活動をしていたカルテットを祖とし、特に1909年のメンバー4名(Meade, Minnigerode, Pomeroy,Galloway)が大学のパブ「The Mory's Bar」を舞台にかの名曲「The Whiffenpoof Song」を作曲してからは、その名を冠して活動している少数精鋭のアンサンブルである。
現在では混声となったエール大グリーにおいても男声のみで構成される、上級生から選抜された14名の合唱団で、そのレパートリーはエンターテイメント・パフォーマンスに徹しており、クラシック系はほとんど無い。
演奏・演目ともアメリカのヴォーカル・アンサンブル文化そのものといっても過言ではない。
The Whiffenpoofsのメンバーに選ばれることは、歌唱力・学業成績共に優秀でなければならないこともあって大変な名誉であり、メンバー14名はタキシード・白い手袋の正装で、大学の夏休みなどに全米や海外を歴訪して演奏会を催すのである。
ちなみに山古堂では1992年度の音源を確保している。

以上4団体に出てきたレコードの探索の裏には、山古堂・古賀取締役の御尽力と人脈があります。
またいくつかのレコードは、Web検索とオンライン・ショッピングの恩恵にあずかり、アメリカの中古レコード市場に直接コンタクトして入手しました。
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